IoTで昭和の機械の不具合を予測せよ
柳原社長がIoTに着手したのは、人工知能の活用方法などを学ぶ勉強会で発した、この質問がきっかけであった。
「ギアポンプの耐久力テストを、IoTとAIで行えないですかね?」
従来のギアの耐久テストは莫大な時間をかけて行われる。これをAIやIoTを活用し、壊れる時間を逆算するなどして、短時間化できないかと考えたのだ。柳原社長のこの質問のきっかけは、雑誌で見かけた「昭和の機械のIoT」という記事である。
現在の中小製造業で使われている機械の多くは、30年以上前の昭和時代に作られたものである。老朽化が進むと、これらの機械の部品がある日突然壊れて仕事ができなくなる、といった不足の事態が起こる。それは、場合によってはその企業の死活問題にまで発展してしまう。そこで、IoTを活用して、機械の振動や電流、温度などのデータを収集し、異常を前もって感知する取り組みを行っている製造業が、その雑誌で紹介されていた。柳原社長は、自社にも取り入れることはできないかと考えたのである。
「当社ではこの取り組みはすでに行っていて、現在も継続中です。例えば歯車をわざと高負荷の状況で壊れるまで回してみる。そのデータから、正常に使った場合に何時間使い続ければ壊れるのか、AIで予測できるようにしたいと思っています」
IoTで改善表彰の最高賞金額を目指せ
広島精機が取り組んだもう一つのIoT化が、各機械のパトライトに光センサーを取り付けて、稼働状況を把握する取り組み。これでパソコン画面やモニターを使って、社内にある全ての機械の稼働状況をリアルタイムで把握できるようになった。また、稼働状況を記録して、過去に遡って振り返ることができるようになった。
このシステムを、どのように活用しようとしているのか、柳原社長に話を聞いた。
「我が社では毎年、社員からの改善提案を募集し、表彰を行ってきました。最初は缶ジュース一本分の賞金からスタートしたが、徐々に高いレベルの改善アイデアが社員から持ち込まれるようになってきています。過去の最高賞金は10万円で、ある案件にかかる原価を半分以下にコストダウンしたアイデアに対して贈りました。こうした改善表彰をもっと活発化し、社員のモチベーションのアップにつなげるために、IoTを活用できたらと考えています」
そのIoTを活用するビジョンを、上杉課長に語ってもらった。
実感に客観をプラスして、改善提案を促進せよ
上杉課長は、これまでの改善表彰の取り組みをこのように振り返る。
「これまでは稼働率など、具体的な数値を計測してきませんでしたので、『こういう改善をしました。確かに仕事が楽になりました』と、担当者も漠然とした感覚しか、その効果を確認できないことが多かったんです」
しかし、IoTを導入することで、それを具体的に数値化できるようになる。
「現在、我が社では各機械のパトライトに光センサーをつけて稼働率を計測する取り組みを行っています。このデータを活用して、『この改善をしたら、確かに稼働率が良くなったな』と具体的かつ客観的なデータで確認できるようになれたらいいと考えています。そうすれば、社員の改善に対するモチベーションも上がると思うんですよね」
社員にもっと楽をしてもらいたい
柳原社長は、IoTデータを社員にもっと積極的に活用してほしいと期待している。
「IoT化で機械の稼働率がわかるようにあり、社員に『機械の稼働率を上げましょう』と指示すると、『身を粉にして働かなくてはならない。もっと早く動かなければならない』と勘違いする社員が多いんです。そうでなくて、もっと楽をしてもらいたい。そのためにIoTを活用してほしいんです」
社員がIoTを十分に活用している状態はどんなイメージなんだろうか?
「社員がIoTを使って『稼働率を上げるために、段取りの行動パターンや道具と機械のレイアウトを変えよう』とか、『どうすればたくさんの機械を同時に動かせるだろうか?』 といった改善提案をどんどんしてもらいたい。“飽くなき挑戦”を続けていくツールとして使ってほしいですね」